教科書の重さ
士狼(銀)



漸く手にした教科書は
弟よりも重たかった


最初の挫折は三歳になる前で
最初の絶望は五歳の頃で
最初の贖罪は十二歳の秋だった

繰り返し踏みつけた水溜まりは
次第に黒くうねる海へと成長していたし
繰り返し睨み付けた青い空とは
気味が悪いくらい距離が保たれていたし


漸く手にした教科書は
弟よりも重たかった

重たかったのだ


掌に食い込んだ紙袋の紐は
気がつけば雨の中に取り残されていて
掌にただ一筋の赤い線が佇んでいる


祖父母の期待を裏切った兄弟は
故郷に帰ることを恐れているから
お互いに教科書の重さを
帰れない理由にしようと考えている

六法全書を投げた先に
窓硝子があったら良かったのに
解剖アトラスを投げた先に
ショーウィンドウがあったら良かったのに

破片はきっと美しかった


携帯写真+詩 教科書の重さ Copyright 士狼(銀) 2007-04-18 01:32:02
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