教科書の重さ
士狼(銀)
漸く手にした教科書は
弟よりも重たかった
最初の挫折は三歳になる前で
最初の絶望は五歳の頃で
最初の贖罪は十二歳の秋だった
繰り返し踏みつけた水溜まりは
次第に黒くうねる海へと成長していたし
繰り返し睨み付けた青い空とは
気味が悪いくらい距離が保たれていたし
漸く手にした教科書は
弟よりも重たかった
重たかったのだ
掌に食い込んだ紙袋の紐は
気がつけば雨の中に取り残されていて
掌にただ一筋の赤い線が佇んでいる
祖父母の期待を裏切った兄弟は
故郷に帰ることを恐れているから
お互いに教科書の重さを
帰れない理由にしようと考えている
六法全書を投げた先に
窓硝子があったら良かったのに
解剖アトラスを投げた先に
ショーウィンドウがあったら良かったのに
破片はきっと美しかった
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過程