まいちゃん (リストカッターは腕時計をしないよ)
リヅ

まいちゃんが
リストカットをやめさせるにはどうすればいいかなぁ、なんて言うから
驚いて問いただしてしまった
彼氏が、やめないんだって
顔も知らないあんたの男をぶん殴ってやりたいと思った

悲しい話が嫌いなあたしの好きな人は
そいつ、自分のこと一番可哀想だと思ってるんだろうねって言う
ぶん殴ってやりたいと思ったけど
あたしだってそういうやり方で自分を可愛がることでしか
やりすごすことのできない時間を知らないわけじゃない
例えば
貴方との距離がうまく測れない時だとか


日々は流れていく
前進してるのか後退してるのか
わかんないくらいの速度で
腕時計の針は無力
必要ないね
なまけものたちの生活に退屈の砂が沈殿する
寂しさはゆるやかに埋められていつも曖昧な顔


あたしもまいちゃんも
17にもなったのに「たすけて」の四文字が消せない
男たちは明確な理由を求めるけど
そんなの答えらんないし
生きるってただそれだけで不安なことだらけだ
思いがけず誰かを裏切ってしまったり
どんな言葉尽くしても伝わんなかったり
明日なんてわからないし
でもわかりきった明日も虚しいだけで


消えてしまってもいいよ
あたしなんかいなくても地球は回るし
貴方はまっすぐ生きていくのだから
少しくらい泣いちゃうかもしれないけれど
貴方はきちんと自分で涙を拭える人だし
その強さはあたしが愛したところでもある
あたしがいなくなっても
きっといい人に出会えるでしょう
その人はあたしが与えられなかった幸せを
かわりに与えてくれるでしょう
あたしじゃなくてもいいよ


沈殿した退屈の砂に
何度でも刻まれる四文字のその上で
まいちゃんは砂の色がピンクに変わるのを待っている
幸せな恋の色
明日を恐れながらも
大切な退屈を永遠に抱き締める日を夢見ている
夢はお嫁さんで
これからも変わんないんだって





君が死んでも世界は変わらない
だけど君が生きていれば世界は変わっていく

まいちゃんが今、抱き締めている
昔、大切な人にもらったという陳腐な言葉を
あたしは今、少しの笑いと涙を堪えて眺めている


自由詩 まいちゃん (リストカッターは腕時計をしないよ) Copyright リヅ 2007-04-17 21:49:03
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