カメラ
1486 106

振り返ってみれば
いくつもの名場面が
風のように流れていました

初恋の別れ路には
薄紅のソメイヨシノが
咲き乱れておりました

老いて衰えた脳のフィルムは
青い春の余韻に浸りながら
もう戻れない過去の出来事を
毎日のように思い返しています

拙い言の葉で思いを紡ぎ
心を繋いだ最愛の人は
葉月の眩しい日差しの中で
帰らぬ人となりました

手塩にかけて育てた我が子は
道を反れることなく大人になり
今では一端の社会人として
汗水垂らして働いています

私の未来は残り僅かで
もうじき記録は消えてしまいます
その事を瞼の裏で思い描いては
枕を濡らす夜もありました

それでも温かい思い出に囲まれ
我が身は幸福で溢れています
だからそろそろフィルムを整理し
星空へ旅立つ支度をしましょう

怖れていても仕方ありません
いつかは消え去る運命なのです
そのために死は優しく穏やかで
人生は儚くも美しいのです


自由詩 カメラ Copyright 1486 106 2007-04-17 19:22:06
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