冬の動物園(動物の公開刑務所)
はじめ

 動物園は罪を犯した動物達の公開刑務所だ
 罪を反省しないで入園者を威嚇する凶暴なままの動物もいるし 後悔して改心し忠実な大人しい動物もいる
 公開することで生物のモラルを向上させる為である
 動物園に収容されている動物達も多種多様で観覧者を神妙な面持ちにさせる
 凶悪な罪人は独房に入れられて常に他人から監視されたり 刑が軽く毎日きちんと罪を償っている者は受け入れられていく
 プライバシーが無い刑務所生活とはどういうものだろう
 きっと死ぬほど苦痛であるはずだ
 食事から排泄まで 全てを見られる運命にある
 中には交尾の瞬間まで見られてしまうことがある
 本人達にとっては耐え難いものである しかしそれは自分達が罪を犯した為である
 人間達は他の動物達に人気がある 同種族の様子なんて見てもつまらないものである
 罪を犯した人間はとても狡賢く 凶悪なので 食事も排泄も陰で行う そこを他の動物達は興味が湧くそうだ 人間だけは牢に異性を入れない 何故だかは分からないが昔からそう決められているのである
 「僕」は人間の飼育員である 今日も山田さんの世話をしている
 山田さんは50代前半で いつも薄毛の髪が抜け落ちることを心配している
 独房で 今日も沢山の動物達が山田さんを見にやって来る
 山田さんは僕に勧められてしかたなく独房から外の檻まで出てくる
 途端に動物達の歓声が湧く テレビでやっていたように山田さんの髪の毛が今日も薄くなったからである
 群衆の中から罵声が飛び交う
 ?罪なんて犯すから罰として髪の毛が薄くなるんだぞ?と
 群集から笑いが起こる 大抵は動物園にやって来る生き物達はストレス発散の為にやって来るのである 園長もそのことを分かっているらしいが何も言わない 何か言うと動物園を潰しかねないからだ
 山田さんは銀行強盗をやってしまった 山田さんは俯き 拳を握り締めながら檻の前に正座する これが服役のスタイルだ 檻の外から発せられるあらゆる暴言や屈辱に耐えながら(服役者には物を投げたり食べ物を与えることは禁止されているが暴言を吐くことは禁止されていない) じっと日が暮れて閉館するのをじっと待っている
 閉館後 独房に戻ってきた山田さんに僕は「お疲れ様」と声をかける 山田さんは虚ろな目で微かに笑い 横になった
 僕はとてもいたたまれない気持ちになった たとえ山田さんが取り返しの付かない罪を犯していたとしてもだ 独房に入ってくる夕風に山田さんの髪の毛吹かれ ぽろりと数本まとめて落ちた


自由詩 冬の動物園(動物の公開刑務所) Copyright はじめ 2007-04-16 05:29:39
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