「 逃げル。 」
PULL.







「逃げよう。」
そう言われたので、
逃げることになった。
以来ずっと、
トメヲとふたり逃げている。

「アテ」というものがないので、
「アテ」もなく逃げる。
「アテ」もなく逃げるので、
「カネ」もなく、
ふたり逃げている。

トメヲはカイショウというものを、
どこかに置き忘れてしまった。
なので、
あたしが働いて、
ふたり暮らしている。
働くのは苦にならない。
トメヲと逃げる前もずっと、
あたしは働いて暮らしていた。

週五回、
近所のコンビニで働いて、
コンビニのない日は、
シノさんのお店に出ている。
シノさんはこの街で知り合った、
背の高いおじいちゃんだ。
シノさんはとてもお金を持っている。
このマンションもシノさんの持ちもので、
あたしは格安で、
ここを借りている。

シノさんは時々、
お小遣いをくれる。
お口を使って、
イイコトをしてあげると、
あたしにお小遣いをくれる。
飲んであげると、
シノさんはもっと悦ぶ。
だから、
いつもより多めにお小遣いをくれる。
シノさんのはトメヲと違って、
少し甘い。
シノさんはお金持ちで、
糖尿も持っている。

お小遣いをもらった日は、
トメヲの大好きなカレーを作る。
いいお肉をたっぷり入れて、
とっても美味しく作る。
トメヲは何も言わずに食べる。
黙々と食べる。
あたしは、
その間にシャワーを浴びる。
シャワーを浴びていると、
あたしの目からは涙がこぼれ落ちてくる。
あたしは痛いぐらいにシャワーを強くして、
じっと膝を抱えて、
そうしている。
そうしていたら、
やがて涙が止まるので、
いつもそうしている。

シャワーから上がると、
トメヲが待っている。
強い力であたしを組みしき、
トメヲは奪うように求めてくる。

冷たいキッチンの床の上で抱かれる。

食べ残しのカレーの匂いが、
なぜだかいつも、
気になる。












           了。



自由詩 「 逃げル。 」 Copyright PULL. 2007-04-15 17:53:15
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