小春景色
チグトセ
一
昼寝でもしたくなるぽかぽか陽気だ
ぽかぽか陽気に抱かれた町で
電信柱の黒い毛に結ばれた商店街の
のんびりとしたアスファルト
のんびりとしたアスファルトの上で
サディストがマゾッホを扼殺し
春カラーの服を着た僕は
酒屋の二階の自分の部屋の
開け放した窓に腰掛けその光景を見物していた
やがて警察が到着し
花見のあいまに呼び出しくらって到着したので
体中に花びらが張り付いていた
大事な現場に花びらが
次々舞って落ちるので
鑑識は「ちょっとお、困りますよお」
と困ったように笑い
警察は「いやあ、ごめんねえ」
と頭を掻くと
また花びらがひらひら落ちる
ばっと舞ってもわっと、
商店街中の花びらが
いっせいに束の間、
商店街を桃色に染め、感無量
散るほどに美しい、ああ、
おばあちゃんたちは立ちすくんで喜んで
これが春
そう、これが春なんだ
二
空中マンボウの形をした飛行船は
大儀い国際カメラの宣伝をしながらも
実はそのくせテロリストたちの巣窟で
(公に花見をすることはできない、ということで)
中にひしめき合っていて
狭いのでお山座りをして
花見が恋しくて一人が泣きはじめると
狭いので、ほとんどみんなもらい泣き
もらい泣かなかった
テロリストの頭のかたい偉い人たちは
先程のサディストをビーム兵器で爆撃
何かが間違っている気がするけれど
何やらエンディングっぽい壮大なBGMが
流れはじめたので
ああ、納得、大団円
マンボウの口から唐突に
何の説明もなく
花びらが噴射され、テロップ
おばあちゃんたちが決然とした表情で
力強い未来への一歩を踏みしめる
感動的なハッピーエンド、ああ
そう、
これが春
これが春なんだ