金沢の情景
はじめ

 1月の金沢の街並みは僕に永遠の安らぎを与えてくれる
 故郷から遙か離れたこの地で
 僕は痛め傷ついた心を癒している
 まだここに来たばっかりで 吐く息は赤い
 僕は一日のほとんどを眠り 目が覚めると街を眺める
 空気が旨い
 記憶の中にある古い君の街と似ている
 僕の心が回復するまで金沢はずっと1月のままだ
 街は雪で覆われていて 外に出るには寒すぎる
でも僕は街並みがよく見渡せるベランダに出ている
 昔を思い出す
 街並みとセピアの君の街並みが重なる
 それは涙が目に溜まったせいだ
 君の街は年中暖かかった
君がワンピースを浮き上がらせてダンスを踊っている姿が見える
 僕と君だけの世界
 森の前で木の下で華麗に踊っている
 その光景が僕にとっての永遠だった
 森のウサギやリス達が集まって君を見ている
 僕はリクライニングチェアに座ってその様子をずっと見ている
 ふと記憶が途切れた 僕はたくさんの涙を流していた
 1月の金沢の街は急に騒がしくなった
 時間が金沢を暖めているような気がした
 君を思い出すと涙が零れて
 僕は自分が情けないように感じる
 僕の心の中にいる君
 僕の心の中にいない君
 僕は僕の心の中にいない君を愛している
 涙が眼球と頬を冷やして 凍り付こうとしている
 記憶の暗闇に視界をくるみ込んで僕は心を無にする
 君を無くすわけではない 君だけを心に留めておく
 僕は暗闇を心に飲み込む
 すると君がまた踊り出すんだよ
 夜になった世界で君は生きているんだよ
 金沢の情景が暗くなっていく
 僕はゆっくりと目を閉じる


自由詩 金沢の情景 Copyright はじめ 2007-04-14 05:39:27
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