金沢の情景
はじめ
1月の金沢の街並みは僕に永遠の安らぎを与えてくれる
故郷から遙か離れたこの地で
僕は痛め傷ついた心を癒している
まだここに来たばっかりで 吐く息は赤い
僕は一日のほとんどを眠り 目が覚めると街を眺める
空気が旨い
記憶の中にある古い君の街と似ている
僕の心が回復するまで金沢はずっと1月のままだ
街は雪で覆われていて 外に出るには寒すぎる
でも僕は街並みがよく見渡せるベランダに出ている
昔を思い出す
街並みとセピアの君の街並みが重なる
それは涙が目に溜まったせいだ
君の街は年中暖かかった
君がワンピースを浮き上がらせてダンスを踊っている姿が見える
僕と君だけの世界
森の前で木の下で華麗に踊っている
その光景が僕にとっての永遠だった
森のウサギやリス達が集まって君を見ている
僕はリクライニングチェアに座ってその様子をずっと見ている
ふと記憶が途切れた 僕はたくさんの涙を流していた
1月の金沢の街は急に騒がしくなった
時間が金沢を暖めているような気がした
君を思い出すと涙が零れて
僕は自分が情けないように感じる
僕の心の中にいる君
僕の心の中にいない君
僕は僕の心の中にいない君を愛している
涙が眼球と頬を冷やして 凍り付こうとしている
記憶の暗闇に視界をくるみ込んで僕は心を無にする
君を無くすわけではない 君だけを心に留めておく
僕は暗闇を心に飲み込む
すると君がまた踊り出すんだよ
夜になった世界で君は生きているんだよ
金沢の情景が暗くなっていく
僕はゆっくりと目を閉じる