老婆とコインロッカー
黒田人柱

重厚な鞄を
コインロッカーに詰め込んだ老婆
最後の小銭が落ちていった
鍵は古いタイプのシリンダーで
取っ手は錆びついていた

老婆の背後で
人々は透過しながら
それぞれの歩みを止めない
午後十一時

瞬間と瞬間とが
交互に繰り返されながら
うつくしい足音に変わってゆく

それはまるで階段のようで
誰かが一歩を踏み出すと同時に
またその一歩が誰かの一歩となる


雑多な夜の出来事
ほらロッカーの扉の閉まる音は
施錠と鉄の腐食が交わる場面
ジュークボックス!


鞄はきっちりと収まって
空間を埋め尽くした
老婆が透過してゆく
彼女にかける言葉を考える僕に
すべての人々は
「待ち人!」
と叫んで消えていった



自由詩 老婆とコインロッカー Copyright 黒田人柱 2007-04-14 01:51:10
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