桜川
佐野権太
あなたが
この頃やさしいのは
何か企みがあるのかと
首を傾げていましたが
いま、この橋にたたずんで
ようやく気がつきました
もう
春なのですね
欄干にもたれて
あなたの
いつくしみや
ねぎらいを
ぽつぽつ辿っていると
ありがとう、なんて
忘れかけていた言葉が
いまさらあふれてきて
恥かしく思います
咲きこぼれた
薄桃を集める
この桜川は
ところどころ淀みながらも
わたしの淵を洗い
やわらかな春光の束となって
くだってゆきます
もうしばらくしたら
ゆっくり
歩いて帰ります
この川の教えてくれた
自然な微笑みを
じょうずに届けられるように
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家族の肖像