手遅れな男
服部 剛
ファーストフードのレジに並ぶと
厨房に立つ店員は
神業の手つきで
ハンバーガーを さっ と包み
すい〜っと横にすべらせる
「あれじゃあまるで、モノじゃあないか・・・」
と嘆きつつ
帰りの夜道でハンバーガーを幸せそうにほおばった
翌日
老人ホームの入浴介助で
次々と風呂用の車椅子に乗せられて
浴室に運ばれる裸の婆ちゃん達のまあるい背中を
ごし ごし 洗っているうちに
横一列に並んだすべての婆ちゃん達の顔が
芋に見えてきた
「これじゃあまるで、芋洗いじゃあないか・・・」
と思いつつ
まあるい背中に泡立つせっけんを
シャワーで流す
認知症の婆ちゃんの着物を
すみやかに脱がせると
「おじさんやめて〜」と叫ばれて
「おじさん」という言葉に苦笑い
休憩時間に更衣室で着替えてうつむくと
いつのまにか 腹が出ていた
その夜、わたしは突如走った
余分な肉を落とすべく
いつも立ち寄るファーストフードをスルーして
「腹よ凹め、腹よ凹め」と念じつつ
バス停からバス停へ
バスに乗り
座席にへたって座ると
リュックのチャックのすきまから
おととい持ち帰り忘れた作業着とパンツが
ぷうん と臭った