海とポンコツと、おまえ
佐野権太

ダッシュボードに斜めに突っ込んだ
おもちゃみたいなラジカセ、レゲエのリズム
全開の窓から
おまえは
ほっぺた出して
ぶるぶるやってた
子供みたいに

俺は
クラッチとアクセル
ジャマイカ気分で
さきゅうまで、もうあと700km

こんなのは、海じゃねぇ
って言うから
じゃあ、どんなんだよって、ついてったんだ
そいつの実家、そいつの海
そしたら、すげんだ
初めてだったよ
あんな白いの
底が見えるんだぜ
人なんて、いなくってさあ
今度つれてってやるよ
さきゅうまち

車は途中でいかれちまった
けど
帰るなんて選択肢
俺たちにはなかった
代車はポンコツで
辿り着いたのは夜明け前で
見せたかったもののすべてが
色をなくしてた

広げたシートに寝転んだ横で
おまえは
膝に、小さなあごを埋めて
ゆっくり、ひらかれてゆく朝を
ただ、見つめていた
波にゆられて聞いた
おまえの潮騒
遠く、近く
(ねぇ、
(すごいよ

*

あの頃の俺たちの旅といえば
気まぐれだったから
宿なんかとらなかった

コインランドリーの銀色のドラムは
湿った俺たちを
ふわふわ持ちあげて
柔軟剤の香りを
深呼吸するおまえは
(このまま
(直らなければいいのにね
なんて、笑ってた

あそこに置いてきちまったな、片っぽ
鮮やかな
オレンジの

*

壁に留めてあったのは
海にもたれる
ポンコツと、おまえ

そこだけが、まだ白くて
さっきから
グラスの光が突き刺さって
まるで、さきゅう

なぁ
波が
すごいぜ







自由詩 海とポンコツと、おまえ Copyright 佐野権太 2007-04-12 09:33:04
notebook Home