死刑執行人
はじめ
僕の仕事は重罪を犯した人間を死刑執行人として処刑することだ
とても責任が重い仕事だ
今日も刑務所に罪人がやって来る
ひょろっとしていて猫背で全身が青白く目玉がぎょろっと出ている男だ
罪をとても後悔しているように見える
罪状はある男性の妻を強姦し子供と共に絞め殺したというものだ
一審で死刑の判決が下され罪人側が控訴したが二審でも同じ罪の判決が下され上告を棄却 死刑が確定した
罪人にはいつ刑が執行されるかは教えられない 罪人は毎日を怒濤のように押し寄せる恐怖と後悔のうちに過ごし 睡眠もままならず 食事も喉を通らない
このままだと処刑する前に死んでしまうんじゃないかという噂が立った 医者に見せると「もう長くはないでしょう」と診断された
自分の罪の為にそうなったのだから自業自得なのだが 死刑執行人として抱いてはいけない同情心が僕には芽生えていた そのことを殺された遺族達が知ると 怒りに猛反発し 「衰弱死してしまうまえに殺せ」と抗議があった
署長も考えを決めかね ついに死刑執行日が決まった
それまでの間僕は暇さえあればひょっこり彼の元へやって来ては 様子を見たり話し相手になったりした 決して罪人に同情してはいけないのだが 僕は鉄柵と心の壁に感情を押しつけて 彼に優しく接していた
僕はこの男を殺したくはなかった 落ちてはいけない禁断の恋のように僕は彼に同情していた しかしそんなことは許されなかった
やがて運命の日がやって来た 男は衰弱した体で泣き叫びながら必死の抵抗をし 暴力を振るって 二人に怪我をさせた 長時間の格闘の末 彼は取り押さえられ 処刑室に連れて行かれた
僕は小便を垂らし 体を異常な程震わせ 発狂している男を電気椅子に座らせ 黒い布を被せ 頭に装置を取り付けた 彼はずっと母親の名前とマリアと泣き叫んでいた 精神が攪乱している中でスイッチを押すのは そして彼を処刑するのは僕にとって人生最大の苦痛だった
署長がON! と叫んだ 僕はスイッチを押せなかった 署長がON!! と僕に命令した 僕はスイッチを押せなかった 署長が怒りを爆発させて ON!!! と絶叫した 僕は震えて動かない右手をその上から無理矢理左手で叩きつけて泣く泣くスイッチを押した