アドバルーン 再稿
モリマサ公

いつかみんなに
ワイドショー用に用意されたコンフェッション



目的地まであと10分です


(母 世田谷区)

音声で表示されていく地図たち
がひろがって
信号待ちから動き始めた列を追っかけてくろくながくブレーキの
ながくのびながらまっすぐ中央分離帯にむかってく痕をのみこんで
わたしたちをのせたままなだらかにはだかの並木がカーブして
ことばは白くまるい息をつき
横切る
空気がすこし残ったゆがんだアドバルーンを片隅にのせたまま駐車場はかたむいている
目を見開いた状態でねむってる人間の顔みたいな気持ち悪さがつづいてく
しかも誰の住んでるどの街にもあるファミレスのメニューみたく
近くて遠いのにどこまでもつるっとつながってて
覗いてる全員のその感覚がいま全部ここに
いまここになにもかも
超全部


つながってる




(高校生 兄)

わーい


グーで殴りつける

グーのままで殴りつづける

じつは超 生きてるってかんじ?


まっさらできずひとつついてない!完璧な空気!
排気ガスを吸い込みもち上がるコンビニ袋が回転してる!
記号みたいだ
その上をトラックが

一台

二台





(中学生 弟)


いのり

というのは

つたわり方によって
個体から液体そして気体へと変化したりはしない
存在する
ということについて
今はもう考えたりしなくていいんだよ

体がぶるっとする
ボタンを押されてパーソナルコンピューターが立ち上がる
じゃーん
みしっ
ガラス窓の向こうに天体望遠鏡をむける
構造的な問題
きぐるみの通り魔が猛然とダッシュするストリート
全世界に共通するテロリスト
かれらを産み落とした親たち
が自分の子供の名前を検索する
わたし達が
実際なぜあのときあの子供を生んだのか
という気持ちにもいちどもどって考えてます
背中の液晶画面一杯に
一体何故?
とテロップがくっついて
ざわっとなる
きーん

  



(フリーター25歳女 出身岩手)

「じゃあ親の気持ちになって考えてみろよ」っていう
ガキっぽい目線から生まれる成長しきれないパパたちの巨額の負債
と責任の所在
ドアにはさまったままクロネコヤマトの不在通知がいろあせていく
どん
どんどん
トラックが通過するたびに揺れてるたくさんのアパートとマンション
「白熱球をみているとなにかの割れる音がします」
ぱりん
笑い声がまわりだす





(コーラス)



度重なる家庭の事情がいっせいに草原の草のようにそよぎだし
吹いている風すら自分の責任?みたく思い込むこどもたちの群れが
光の中を走ってる
そっかーこのことだったんだー
うでをのばしてばらばらに
がけのふちから
飛びたっていく




わーい




(妹 小学4年生)



あはは
四つ木のジャンクションでわたしたちは交差していく
時速と停止してるものの関係を俯瞰する
中川の対岸沿いの建物のかべたち
それぞれのいろあせかた
そこで働く人と暮らす人たちの
茶碗や食卓を並べて
それぞれの国の油や香辛料をかいで
橋たちがゆっくりとのびていく
時間
というあふれるような流れに沿うみたくして走ってる自転車と人と
棒のような犬
その速度と
あらわれたりきえたりする中州の
あしやよしをなぜる風にのっかってくカモメ
予言者のこなしてきた洗礼のひとつひとつ
その浮力と非リアルさが
スピードにのってどんどん近づいてくる
首都高の看板のみどりいろ
しろくぬかれた小菅
の文字がはりついたその出口をでていくもやもやした笑顔たち
おすすめのお菓子を平気で差し入れにいくかすみがかった輪郭
あれはわたしたちの家族?
それってもしかしてハッピーエンドですか?
なにここ?これは‥?未来?






(JR西船橋の駅のホームから改札をぬけ原木方面に徒歩13分 再び弟)


衝撃!の文字
とともに
宇宙人がつぎつぎと人質をとりはじめる
ブラウン管の中をうかんでいく体たちがUFOにすいこまれて
チャンネルがきりかわる
それぞれの言語のCMにはさまれながら
なんだろうこの失われていく感覚
なんだろう
5分間隔で手を洗いながら
おにいちゃんがぶつぶつなにかいってる

最近は刑務所とかいってもお菓子とか毎日たべたりできるみたいで
本当に人殺しとかも平気で血の付いてない枕のお布団に寝て
反省してるってかんじ?
まじでまじ信じてっていっても誰も信じてくんないし
てゆーか連続してごめんねってかんじ?

お父さんがお母さんの目をボールペンで刺そうとしてる
家は三軒先まで燃えてしまった

受刑者達はこれからも人類として時間という観念を本当の意味で平等にとらえてまーす







(中野駅に向かう東西線 前から2両目1つ目のドア 再び妹 小学4年)



地面を蹴ると一瞬だけ地上からはなれる両足そしてふたたび
重力
これって操作できないし
ボディー
これも100年ももたないよねー
地球人て宇宙の速度でいうとすぐ死ぬし
酸素がないと生きてけないってほんと?
わーい


真っ暗い宇宙に放り出される



虹が地球の夜側に突き刺さっているのがわかる




あは

あはは






(北綾瀬 義理の母 幸子 46歳 ハミングバードのママ)



ユーラシア大陸の右のはじっこで
ほそながい島たちがくっついて並んでる
すこしずつ遠ざかる太陽のひかりの角度をうけて
地震雲の金色とぼやぼやした灰色のした
すぐに東京都のマークのついた下町の浄水場のたてものがなつかしくきばみはじめる
加平のすぐちかくにすんでいるKくんが
あのすごくおいしいおかしのような音のアルトサックスをどこかでいま吹いてるというかんじ
愛ってのは本当にいい
いろんな形があって
顕微鏡で細胞みるのと
宇宙ステーションの窓から砂漠みるのとが似てるみたく
大きさを変えて
質量をこえて
分解されながら違う形になってまた新しく文化的要素みたくしてつづいてく





(祖父 年金月16万 貯金一億2670万)

健やかにグロウアップしたクローンたちが微笑みをかえす
しらない人はしらないうちにホームからなにげなくおしだされ
「しんじらんなーい」とかの何本もの腕がすべてシャメールの角度で折り曲がり
線路上のあるなにかが
スキルアップしたユーチューブでスペクタクルになって
記憶からすりきれるまで配信される
キイ
キイ
うまれてこなければよかったとぼやくブランコの上の還暦の妹
「超きもくない?」がそれぞれの年代や言語で変換されて
ビビットで醒めない夢のようなメッセージがふきだして
つかいすて衛星のGPSの情報としてぼくたちあたしたちは生活しつづける
湾岸戦争の砂漠みたいに
二次元のデータになってマーケットとしてのひかりのてんてんがうかびあがる





(孫 幼稚園)

一人きりになれる空間がないと死んじゃいそー






ぽつん





みあげる



(全員で)



くちをあけて

みんなそろって乱れながら降りつるものを舌でうけとめよう

どんな細い枝にも付着する
逆光ではいいろのスノー


なんだろうこのつまさきの浮遊感
なんだろう







でもあたしの本当のお父さんも今のお父さんも
ぼくの本当のお母さんも今のお母さんも
本当はやさしいひとなんです
じゃあこのテストで100点取ったらパパが帰ってくるって本当?
あの葉っぱが落っこちたらママが死んじゃうって本当?

じゃあこうしたいっていったらそうなることって
本当はないんですか?



(ナレーション)

ダウンロードされた待ち受けの画面みたいな距離感でひろがってく
ほっとけない世界のまずしさが
泥でよごれた笑顔がどんどん
カーニバルなサウンドで鼓膜をわれさきにつきぬけて






(コーラス)

むきだしのレンズたちに
いつかふりそそぐアシッド
ぬけてく頭髪と破けた皮膚
きゅうにおもいだす名前みたく





なんだろうこの失われていく感覚
なんだろう









自由詩 アドバルーン 再稿 Copyright モリマサ公 2007-04-11 18:23:43
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