メロンパンの呪い
壺内モモ子

お昼休み。
いつものように、手作りのお弁当をふたつ持って、中村先輩がいる3年4組の教室に入る。
だけど、中村先輩はいなかった。中村先輩だけじゃなくて、他の人も誰もいなかった。

学校の前にメロンパン屋の車が来ているのだ。窓の外を見ると、物凄い数の行列ができている。私以外の、この学校にいる人全員が、メロンパンを買いに行ったのではないかと思われる。先輩も、きっとメロンパンを買いに行ってしまった。かわいそうに、きっと変な呪いをかけられてしまったんだ。

いつものように、先輩の机と、前の人の机をくっつけて、二人分のお弁当を広げて先輩を待つ。先輩のカバンの中から、クロスワードパズルの本を取り出して勝手に解きはじめる。

メロンパンを買い終えた人たちが、ぽつぽつと教室に戻ってくる。メロンパンの甘い香りが教室中に漂う。「このメロンパンおいしいね」なんて声が聞こえる。

気持ち悪い。

先輩は、まだ戻ってこない。私は、もくもくとクロスワードパズルを解きつづける。


キーンコーンカーンコーン


授業が始まった。しかし、先生はまだ来ていないし、生徒もまだ揃っていない。中村先輩だって来ていない。窓の外には、まだものすごい数の行列ができている。

クロスワードパズルを解き終えたら、自分の教室に戻るか。

1問だけ解けない問題があった。

『パンの上にビスケット生地を乗せて焼いた、ふんわりさくさくのパンは?』

どうしても解けなかったから適当に、「おべんとう」と書いておいた。間違っていても気にしない。

先輩のバッグの中に、クロスワードパズルの本と、私の手作りのお弁当を閉まって、3年4組の教室を出た。

中村先輩に会ったら聞こうと思う。

「先輩は、私とメロンパンどっちが好きですか」

って。
中村先輩にかかっていた呪いも解かれるはずだ。

メロンパン屋の車の前には、まだ行列ができている。


未詩・独白 メロンパンの呪い Copyright 壺内モモ子 2007-04-11 03:57:39
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