鬼の島
なかがわひろか

鬼の島に住む鬼は
毎日生活を送っている
朝起きると少し不機嫌で
中には朝から元気な鬼もいるが
多くの鬼は低血圧で
みんな朝ごはんはほどほどにしか食べない

ある鬼は会社に出かけ
ある鬼は子鬼を送り
ある鬼は朝ごはんの後片付けや洗濯をして
お昼過ぎになると昼寝をしたりした

時々島の向こう側から
時代劇みたいな格好をして
鬼退治に来る人もいたが
至って平和な鬼の世界では
彼らは手持ち無沙汰でぐるりと鬼の島を見学するばかり

島で一番偉い鬼が彼らを呼んで
懇切丁寧に説明した
とりあえず鬼を踏んで
写真を撮ってください
それがあればあんた方も体裁を守れるでしょう

彼らはそんな簡単にことが進むなら是非、と
その提案を受け入れる

アルバイトで雇った退治用の若鬼を呼んで
彼らはさっき言われたように
写真を撮った
それはとてもスムーズに行って
彼らは謝礼をいくらか鬼に払い、島を出た
アルバイトの鬼は謝礼の中からいくらかをもらって
午後から少し遅刻して学校に行った

私は一番偉い鬼に聞いてみた
ああいった人たちはよく来るの?
しょっちゅうだよ
なんだか向こうではうちらを倒すと英雄になれるらしい
確かに
鬼を退治するっていう話は未来永劫子どもたちに語られる
あんたらはそれでいいのかい?
別に
これもビジネスさ

そう言って鬼は僕に少し笑った

僕は彼にインタビュー代を払って
その島を後にした

鬼の島では
鬼たちが
毎日を平穏に
暮らしている

(「鬼の島」)


自由詩 鬼の島 Copyright なかがわひろか 2007-04-11 02:04:39
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