誰も寝てはならぬ
はじめ
誰も寝てはならぬ さもないと死神のトゥーランドットがケタケタと白骨の顎を鳴らし笑いながら大きく鋭利な鎌を振り上げて魂を奪ってしまうぞ
さっそく眠り込んだ者がいるな ほぅ 狐の親子か トゥーランドットの鎌から逃れたければ 他の者の魂を捧げるがよい 必死に起こそうとしてももう遅い 蒼白い月の光で魔力の宿った呪われた闇の向こうからほら馬の足音が聞こえてくるだろう 完全に白骨化した馬の背に乗って 我らが呪われし中国の姫君 トゥーランドットがやって来たではないか!!
泣き叫んでいるのは二匹の子の魂を奪われた狐の母親か もっともっと泣き叫べ!! そして嘆くのだ 何故子の魂を理由も分からなく刈られたのかを
「今夜は誰も寝てはならぬ」 いいかよく聞け 死神へと変貌したトゥーランドット姫の「求婚者の名を解き明かすことができなかったら」この世界の「住人は皆」トゥーランドット姫に魂を奪われるだろう!! 姫はもうお前達の何百倍も嘆き悲しんでおられるのだ!! 求婚者の名前が分からず その苦しみと悲しみの果てに姫は姿を変え 死神となり 毎晩毎晩 生き物達に同じ謎を与え 褒美として冷たい心を暖め戻し 元の絶世の美女に戻ると言い 解けないと代わりに魂を奪うのだ 未だ誰としてその謎を解いた者はいない!!
元はと言えば…中国の北京の紫禁城で或る王子が姫に求婚を申し込んだのだが 姫と結婚する条件は姫の出す三つの謎を解いた者だけだったのだ その王子は易々とその謎を解き 姫に求婚を迫ったのだが ある事情で心が酷く冷たくなっていた姫はそれを拒んだ すると王子は姫に 「明日の夜明けまでに私の名が分からなければ、私は潔く死のう」と言った そして王子は姫に「接吻」をした すると姫の心に変化が起きたのだ 姫は彼を愛していたのだ そこまではよかった…
そして彼は自分の名前を教えようとしたが 何ということだろう 彼は自分の名前が分からず 約束通り「処刑」されたのだ… 姫は絶望の淵に突き落とされ 死神となり 心を無くして 鎌を上げ その出来事に関わった全ての者達の命を奪った やがて姫は人々から恐れられるようになり 「謎かけの姫」として噂されるようになった
その事件を面白がったゴッツィが小説にし ジョゼッペ・アダーミとレナート・シモーニが台本にし 11人の作曲家によってオペラ化したが 時期はバラバラだが全員姫によって魂を刈られた プッチーニもそうだ 皆呪われた闇に取り込まれて幻覚を見ながら命だけはと懇願したが 容赦なくやられてしまったのだ
…さぁ!! 謎が解けた者はいないのか!! 謎が解けた者は「銅鑼を三回鳴らし 自らが新たな求婚者となることを宣言し」彼の名を高らかと述べるのだ!!
そうすれば姫の御霊は静かに天の彼の元へと戻っていこう…
さぁ 早く
今夜は…
今夜は…
…誰も寝てはならぬ