シリ・カゲル氏
シリ・カゲル

クリエイティブ・ディレクターの
シリ・カゲル氏は、いたって本質的だ
物事の本質を
日曜日の朝の、
スカンクの一発目のおならのように
気持ちいいぐらいに見抜く

しかし、シリ・カゲル氏は
沈黙する葦のように
それを表現する言葉を知らない

そこでシリ・カゲル氏は30歳になったある日
人生のコラボレーションをすることを決意した
さいわいにもシリ・カゲル氏には
今までにベッドを共にしてきた
たくさんの魅力的な女性がいる

最初に再会したのは
女性ファッション誌の拡販をしたときに
知り合った女性で
全身をブランドでコーディネイトして
眉毛もネイルも手抜かりがなかった
しかし、シリ・カゲル氏は
すぐに彼女の本質を見抜いてしまった
「とてもフォトジェニックな女性だけど、
消費するだけで生産することを知らない
まるでゲームセンターの隅で稼働を続ける
パックマンの剥製みたいだ」
いつも使っている手帳に×印を書き込む

次に再会したのは
ロハスショップのプロデュースをしたときに
知り合った女性で
自分を磨くことに余念がなく
地球環境にも関心を払っていた
しかし、シリ・カゲル氏は
すぐに彼女の本質を見抜いてしまった
「とてもインテリジェンスのある女性だけど、
疑うばかりで信じる気持ちを持たない
まるで絶海の孤島に取り残された
有袋類の先祖みたいだ」
またもや手帳に×を書き込む

その後も何人かとデートを重ねたが
なかなかめぼしいパートナーは見つからず

そして、いよいよ最後に再会したのは
芸大時代にアルバイト先で
知り合った遊び仲間のひとりで
シンプルな生き方を好み
友達の多い、よく笑う、大食らいの女性だった
シリ・カゲル氏は直感的に
「彼女は、激流でも飽きずに鮭をつかまえ続ける
クマのように人生を楽しめる人だ」と見抜き、
「彼女こそコラボレーション相手に相応しい」と考えた

その後、何回かのデートを重ね
一緒に海外旅行にも行き
いよいよ結婚を申し込む段階というときに
シリ・カゲル氏は、はたと困った

彼は自分の気持ちをうまく表現することができなかったのだ

***

しかし、物語はここで終わらない

シリ・カゲル氏の想いを汲み取った彼女は
自らシリ・カゲル氏にプロポーズをした

そうして、いま、シリ・カゲル氏は
売れっ子クリエイティブ・ディレクターとして
忙しい毎日を送っている
そして、この詩の直喩部分は
後からシリ・カゲル氏の妻が書き加えたものである。


自由詩 シリ・カゲル氏 Copyright シリ・カゲル 2007-04-10 22:57:42
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