ふたひら
乱太郎
あの夜
ひとつの蕾から
散っていった桜の花びら
ふたひら
ふたり別々に
零した涙のように
優しげで
気まぐれな微風が
さらに引き裂く
交わることない
果てのような遠くへ
数え切れない無数の桃色に
紛れて
もう
どこに在るのかは
探す術もない
春を告げるうぐいすにも
あの蕾のある梢にとまって
鳴いてほしくない
夜は
まだ冷たさを
桜の木に擦り付けて
ふたりの季節は
ほんとうに散っていったのだろうか
はかない余韻の
香りだけ置いていって
来年もまた
ひとつの蕾に寄り添う
ふたひら
でいたい