流転する、すべての
望月 ゆき

くりかえされる、すべてのいのちと
いとおしきわたしの二人称たちに



わたしがあなたを産んだそのとき
それとまったく同時に
あなたがわたしを産んだのです
この、配線だらけの街の
満天のネオンの下で
あなたはいつまでもはだかのままで
わたしのなかに抱かれていました



ことばからいちばん遠い声というものがあって
やかましくも心地よくもないそれは
ほどなくおとずれる半夏生の日にわたしを
とんでもない孤独の底辺に追いやりその直後に
深爪の手をさしのべてはわたしを見下ろし
お母さん、などという聞いたことのないことばを発し
ひどく無邪気に笑うのでしょう



夕暮れ時になると決まってわたしを呼ぶあなたの声が
今もなお耳のおくに反響して
とおくへ行こうとするわたしの記憶はいつまでも
剥がれ落ちるすべを知らないまま
配線に足をとられてここにいます



羊水を、伝う、振動、
低く、くぐもった、音、



かさぶたをはがしてはいけないと教えたのはあなたで
それを教えなかったのはわたしでした
終わりのないあそびはあなたが
まだ微粒子だった頃から続いていて
土管のなかにかくれたままのわたしもいつしか
微粒子となり見知らぬだれかの羊水を漂っています



不安定なものばかり信じてしまう
と言って泣いたあなたは
幼稚な約束と、それと同じだけの嘘をわたしに食べ与え
あなたに似た深爪の手をつくり終えたそのあとで
長い忘却の日々へと透きとおっていくのでしょう
たしかなことがあるとしたら、
お母さん、あなたも
あなたもわたしが産んだのです







自由詩 流転する、すべての Copyright 望月 ゆき 2007-04-10 20:36:21
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