spring
大覚アキラ

ゆっくりとひらいてゆく 瞳の奥にある泉
深い水色の かなしみに似た 透明な水
ちいさな しかし 底の見えない泉

そのほとりで 小鳥たちは さえずります
悲鳴のような声で 切り裂くように
羽ばたきが 水面にかすかな波紋を作りました

すべての音が 消えうせてゆくように
何もかも どんどん遠ざかってゆくのです
わたしだけを置き去りにして なにもかもが

泉の水を 両手でそっとすくってみたら
わたしには わかることが何ひとつない
水の冷たさが そのことを教えてくれました

小鳥たちは もうこの泉のほとりには
二度と帰っては来ないでしょう
たとえこの先 幾度 春が訪れても


自由詩 spring Copyright 大覚アキラ 2007-04-10 11:32:10
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