恋月 ぴの

この黒い塊に火をともせば
星空にくゆる灰色の煙で
ふたり。息苦しくて
思わず咳き込んでしまいそう

エンジンを切った
深夜の車内は。ことさらに寒くて
あなたの手のひらだけが
あたしの温もり

あなたには帰るところがあって
どうやって帰ろうかと考えている

安らぎと微笑みに囲まれ
じゃれる歓声を優しくなでる。あなた

あの角を右に折れれば
あなたを奪えた
それでも
笑顔の溢れる窓辺は
決して壊してはならないものに思えて

このまま夜は明けないで欲しい
永遠の闇にいつまでも抱かれていたい

無機質に並ぶ幾つもの小さな穴は
漆黒の彼方より
わたしたちを窺うかのように。深く呼吸する

そんな気配に
途惑うわたしの手のひらへ
あなたは。そっと合図を送る

意を決した右手の動きに
イグニッションは静寂を引き裂き
日の出までの僅かな道程へ

お別れの始発駅は
あの角を左へ折れれば


自由詩Copyright 恋月 ぴの 2007-04-09 22:53:37
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