鸚鵡の偉業
蔦谷たつや

西の国の王様は嘆いた。
彼の一番に大切にしていた海より青く世界一珍しい、
自慢の鸚鵡が逃げ出したのである。
王様は独身だった。彼は早くに両親を亡くした。
彼は悲しさをわかりたくないと、その鸚鵡を肉親の如く可愛がった。
鸚鵡は家族であり、よき友であった。
だけども、鸚鵡は逃げ出したのだ。
鸚鵡はとても逃げるようすはなかったので、
臣下は注意することなく、殆ど鸚鵡を放し飼いにしていたのだ。

王様は嘆いた。
そして、すぐに彼の嘆きは、紛れもない怒りに変わった。
大切な鸚鵡を逃がしてしまった臣下は、その家族もみんな、国を追われた。
唯一の家族を奪われた王様は、鬼神の如く怒ったのである。
やがて彼の怒りは、紛れもないひどい悲しみに変わった。
新しく呼ばれた臣下はただひたすら、世界中に渡って、青の鸚鵡を探した。
それはそれは、死に物狂いで鸚鵡を探した。
けれども鸚鵡はどこを探せど見つからなかった。
すると、王様は彼の民をもつかってまで、鸚鵡を探しだそうとした。
民はこの愚策に何も言わずに従った。
民はそれはそれは一所懸命に、彼らの愚王のために鸚鵡を探した。民は住み慣れたこの国を追われたくなかったのは勿論あるが、なにより彼らの愛する王様を哀しませたくはなかったのである。

だけども鸚鵡は見つからなかった。
王様は悲しんだ。
やがて彼の悲しみは、また激しい怒りに変わった。
とうとう、臣下も民もみんな国を追われた。

やがて、幾日かがたった。

王様は気が付いた。
大切にしていた、唯一の家族はいない。
自分のために働いてくれた臣下も、不平もなくおのれの愚策に従った民もいない。
誰もいない。愚かで、哀れな自分一人だけ、である。
王様は悲しんだ。ただ悲しんだ。
彼は一人きりで、大きな大きな寝室で泣いた。
何時になく綺麗な夜空に、何時になくはっきりとした月は一層、王様の涙を呼んだ。
今夜、王様は彼の自慢であった長髭さえも濡らした。

やがて、朝になった。
かつては民で賑わった朝市など、今はない。静かすぎる朝であった。
王様は決断した。
もはや私は王ではない。今まさに王であることをやめよう。
王様は民になった。
王様、いや、この民の名前はエドワードといった。
すると、どうしたことか。西の国にはたくさんの民が戻った。
かつての臣下も民として戻った。
エドワードは、突然の喜ばしい帰還に大いに涙した。
エドワードの悲しみは紛れもない喜びに変わった。
エドワードは生まれて初めて言った。
幸せだ。私は幸せだ。

青色の鸚鵡はエドワードの肩の上で小さくあくびをした。



自由詩 鸚鵡の偉業 Copyright 蔦谷たつや 2007-04-09 08:53:42
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