ブーツの中の夜
結城 森士

ブーツの中の夜がゆっくりと足音をたて、落ちた
爪先の薬指があるべき方向を差し示し、
質量を伴って引き寄せられる 闇の中へ

あるべき姿を見失った自身の影は、
どのようなラインを描くべきなのか分からないまま歩き続ける
電燈に照らされ、路上に写し出された影は、か細く震えている
引きずって、引きずられて
闇の中で、うずくまる

僕のブーツの中で
星はゆっくりと滑り落ち
電燈は頼りなく消滅する
ヘッドライトは掻き消え
家々の明かりが次々に消され
影が消え
過去が消えていく
母が去り、父が倒れ
皆去っていく
音もなく
黒い輪郭だけを残して

電信柱の下に佇んでいる
僕の影が、見当たらない
ブーツが、どうしても動かない


自由詩 ブーツの中の夜 Copyright 結城 森士 2007-04-09 07:08:41
notebook Home