死にかけ少年と老婆
なかがわひろか
あんた死人の臭いがするね
だけどそれほど悪くない
老婆は僕にそう言った
婆さん、きっとあんたと同じ臭いなんだよ
だからどこか安心する
老婆はしわくちゃの顔をもっとくちゃくちゃにして
何がなんだか分からないような顔で笑う
あんたもうすぐ死ぬんだね
老婆は少し嬉しそう
婆さんだってそれほど遠くないさ
僕は皮肉の様に薄くなった皮膚を歪めて
そう言い返す
死ぬなんて大したことじゃあないよ
早いか遅いか
それだけさ
老婆はそれでもまだ笑いを止めない
僕は早すぎる訳でもない
遅すぎる訳でもない
それほど悔やむようなこともないのさ
僕は精一杯の無理をして
老婆の笑いを見下そうとする
そうさね
老婆はそう言う
まいった
僕はこいつに勝てやしない
老婆は笑う
くちゃくちゃの皮膚を弛まして
老婆は笑う
(「死にかけ少年と老婆」)