長い坂道
川口 掌
カタカタカタカタ
歩き始めたばかりの幼児が手押し車を鳴らす
母親はその直ぐ後で
我が子を支える為の手を広げたまま
少し腰を屈め歩いていく
坂道に差し掛かりよたよたと
ふらつき出した母娘の脇を
なんと無く優しい気分になりながら
私は通り抜ける
坂道を中程まで登ると
何か急ぎの用事でもあるのか
早足で歩く中年の女性と
その少し先を
乳母車を押しながら
ゆっくり歩くお婆さんが見えてくる
中年の女性は
よっぽど先を急ぐのか
お婆さんには見向きもせず横を通り抜ける
しばらくして
私もお婆さんの横まで来て
乳母車の中を覗き込み
思わず声をかける
乳母車の中には
近くのスーパーで買い込んだ
一週間分の食品が
ぎゅうぎゅうに乗せられている
それを押し
ゆっくり ゆっくり
歩いていくお婆さん
「それ 押しましょうか?」
私の荷物も乳母車に
乗せさせていただく事を条件に
私は乳母車を押しながら
お婆さんと共に坂道を登り始める
先程の中年の女性がかなり小さく見え始めた頃
後から賑やかな声が聞こえ始める
自転車に乗った高校生位の女の子達が
わいわい きゃぁきゃぁ 言いながら
私達の脇を擦り抜けていく
女の子達は間も無く
中年の女性も追い越していった
人生もこの坂のようだ
急ぐ人
欲張らずゆっくりな人
若く元気いっぱいな人
今やっと登り始めた人
それぞれにみんな
自分のペースで登っていく
長い
長い
この
坂道を