SEMANA・SANTA
水在らあらあ








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木曜日に最後の晩餐をして

金曜日に くちづけられて
磔にされて 血を流して 死んで

三日後に もう一度生まれる

手のひらには穴が開いたままで

わき腹からは血を流して




?.

木曜日に最後の晩餐をして
俺達はその二千七年後の夜に喧嘩していて

今日は金曜日で
磔にされて
おまえのご両親と海沿いの崖を歩く
カモメたちが飛び交う青空の下を
俺は殆どおまえの父親のパブロと話している
木々のことや
遠くに見える貨物船のこと
おまえは後ろに離れて
母親と歩いている
きっと咲き始めた春の花をいちいち愛でているんだろう
おまえたちの歩みは遅い

ユダは実は裏切り者じゃなかったって話
パブロ、どう思う?
実は基督の思想を理解するただ一人の人間だったって
裏切りの口づけは
基督がそうしろって言ったって

私はいいと思うよ
とりあえず歴史から一人裏切り者が消えるわけだから
でもバティカンは何も言わないだろう
最近マドリッドで教会が一つ閉められたって話聞いたか
そこの神父が少し違った考えを持っているって理由で
彼らは何もかも
このままにしたいんだろう

おまえと母親がやっと追いついて
俺達は小さな浜に降りてゆく
あそこでお昼ご飯にしましょう
パブロ 膝はどうよ まだ平気?

ダンテの神曲を
遠い昔にマリアにせがまれて読んでいた
ギリシャ人の嫁に
低い声をさらに低くして
あいつが一番好きだった地獄編を
最下層で
地獄のその底辺で
ルシファーに永遠に齧られていたユダは

青空の下で





?.

岩場に下りて
サンドイッチの中身をくらべっこして
俺たちのはチーズと生ハムのオムレツで
この生ハム塩が効いているね
よかったねおまえいつも塩を忘れるから
どうせ今日も忘れたんだろう
サンドイッチ片手に
岩場を飛び跳ねてゆく俺を
遠くからおまえの母親が心配そうに見ている

(ユダは)

(マリアは)

(俺は)

(あ、蟹)

(あいつは)

(逃げた)

(おまえは)

俺は仕事の行き帰りに何度も通っているから
この岩場でも何度も泳いだり蟹取ったりしたから
この岩の一つ一つを知っているから
おまえはそこに座ってな
裏切らないから
どこへも行かないから

ついてくんなよ
危ないよ
すきだって
言ってるでしょう
それはほんとさ
知ってるでしょう

あんたまた日本のこと
考えてるの
あの子のこと
考えてるの

いや
妻のことだ
そしておまえのこと
俺のこと
裏切りのこと
口づけのことだ
俺はおまえを裏切らない
でも遠くに行くかもしれない
ずっと遠くに
行くかもしれない
泣くな
海に投げるぜ
泣くな
いや
俺は
泣いてないよ
いつも 感情の その底辺に丸くなって
ただ指をしゃぶっているだけだ

いつだって

泣いてなんかいない





?.

木曜日に最後の晩餐をして
おまえは泣いて

金曜日に くちづけて
磔にされて 血を流して 死んでしまえばいい

三日後に もう一度生まれるのなら

手のひらには 穴が開いたままで

わき腹からは 血を流して

心臓は 思想も裏切りもくちづけも超えた

青空の中に













自由詩 SEMANA・SANTA Copyright 水在らあらあ 2007-04-07 05:30:12
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