手 紙
さち
泣きたくて 泣けなくて
母に手紙を書いた夜
滲むことさえ出来ずに
笑顔の文字が並んだ
「変わらずに元気です
新しい服を買いました
今度の休みに帰る
その時に着て行きます」
「毎日が楽しくて
時間が足りないくらいです
この街に来てホントに
良かったと思ってます」
強がっても仕方ないのに
ホントのことは言えない
手紙を読む温かい手を
思い浮かべる
「今頃は雪解けの
水が冷たくはないですか
よく効くクリーム昨日
見つけたので送ります」
「友達が来たときに
送ってくれたリンゴ食べて
故郷がある人って
羨ましいって言ってた・・・」
田舎だから他に何も
無いって笑ったけれど
胸に沁みる甘い香りに
嘘はつけない
まだ雪の残る
故郷の山に
春が顔を出す頃の
匂いが懐かしい
頑張って 強がって
笑顔の手紙を書くけれど
母の胸に届くのは
涙声かもしれない
帰りたいよ
帰りたいよ
思いは文字にならない
叱りながら
温かい手で
抱きしめて欲しい