愛し君との想い出
はじめ
あの年の冬は雪が少なかったなぁ
と記憶の中であの年の風景を思い出して1?積もった雪の上を踏みしめたりつま先で地面で穿り返したりしている
自分の部屋から眺める外の景色は普通なのだけれど 毎回毎回違って見える この景色を見て僕はあの年のことを思い出したのだ
僕はまだ大学生で 大学を中退しようかと思っていた そんな時に 君と出逢った 君は綺麗で とても頭が良かった
僕達は偶然にも同じ趣味を持っていた そのお陰で僕達は急接近していった 大学に行っている時はいつもその話で持ち切りだったし バイト先も同じになったし(その方がずっと趣味の話をすることができたから ファミレスで働いていたけど、たっぷりと話する時間があった) 帰り道も帰宅した後メールでの寝る間も惜しんでやりとりをした 辞典を丸ごと暗記したらどんな詩でも書けるといつも口癖のように言っていた その証拠に 君は僕と話したりメールしたり詩を書いたりする以外 ずっと電子辞典を見ていた 初めてのデートの時も電子辞書を見ていたし 何かいいアイディアが思いついたりすると 携帯にメモしていたし 夜初めてのセックスが終わって僕が煙草を吸っていると 君は初めて経験した性体験を渾身の力を込めて詩にして綴った
君と桜散る春に出逢ってから 夏が過ぎ 秋が過ぎた その間僕達は 桜前線を追いかけるように北へドライブしたり 永遠と続くんじゃないかと思う程しとしとと降り続く梅雨を避けて屋根の下で遅いセックスに勤しんだり 山開きが海開きが始まってハイキングや海水浴に行ってその感想を詩に書いたり そろそろ単位がヤバくなってきて真剣に授業を取るようになったり テストで赤点を取って貴重な夏休み中ずっと君に付き添われて補修授業に出たり その分を新学期にまた費やしてしまったり(君は僕とずっと一緒にいたのに何故か単位が取れていたり) 大きな季節の変わり目に君に生理が来なくなって一時期大変なことになったり 本嫌いな僕が君の電子辞典に触発されて本を滅茶苦茶読むようになったり(その期間だけで50冊以上読んだり) 年に一度の大きなコンテストに一緒に応募したりしたりした
しかしこの都市に初雪が降った日 突然と君はこの世から姿を消した 僕は君の数少ない話し相手に聞いてみたり 友達がいなかった僕のクラスメイトに初めて突拍子も無い相談をしてみたり ゼミの先生に尋ねてみたり 君の住んでた行き慣れたマンションの住民やルームメイトに消息を聞き回ったり 大学に問い合わせてみたり 掲示板を出したり よく見ていたネットのサイトで捜索願を出したり(誰も相手にしてくれなかった) 警察に相談したり(こっちは相手にしてくれた けど何ヶ月経っても連絡は来なかった) 僕と一緒に行った思い出の場所へ何度も色んな場所へ行ってみたりしたけど君は何処にもいなかった 僕の手元には君がいなくなった前日に忘れていった一冊のルーズリーフの挟まったバインダーだけが残されていた そこには僕への想いをたくさん綴った詩が残されていた 僕はその詩を何度も何度も見直しながらあの頃のことを想っている