風、風
なかがわひろか
ふくれっ面のあなたの頬を
針で突き刺したら
プシューと間抜けな音を立てて
空気が漏れてきて
その風で台風を起こして
そこら中を吹き飛ばして
真っ平らになったから
とにかくいっぱいに駆け回ろうと思って
いっぱいいっぱい走ったら
あなたは後ろから追いかけてきて
あまりにも一生懸命に追いかけてきて
なんだか随分それが怖くって
世界の果てまでとにかく走り続けて
途中であなたは疲れ果てると思ったら
先に私の方が疲れてしまって
あなたに捕まると思ったら
あなたは私を追い越して
まだまだ漏れる空気を撒き散らして
世界中をもっともっと吹き飛ばして
そしたらなんにもなくなって
なんだかそれはとっても面白くて
私はまた走って
あなたも随分走って
疲れて
また走って
時々歩いて
キリがないから
もう片方のあなたの頬を突付いて
今度はもっと大きな台風を起こして
それに乗って世界を飛び回ろうと思ったら
もう空気は残っていなくて
ただ痛がるあなたと
私は二人で
だだっ広い世界に
取り残されて
取り残されて
結局世界はこんなものかと
あなたが言うので
そんなものよと
私は言ったのです
(「風、風」)