カスミちゃん
大覚アキラ
夕暮れの近づく音がするので
ポッキーを食べながらベランダに出てみたら
銀色の機体に夕日を反射させながら
巨大な鯉みたいな旅客機が
山の向こうにふわふわと飛んでいくのが見えた
あの山のふもとのあたりには新興宗教の塔が建っていて
晴れた日にはコンクリート製のその塔が
このマンションのベランダからもよく見える
今日は天気がいいので
黄砂に煙った光の中に
コンクリートの塔がそびえ立っているのがぼんやりと見える
そいつを眺めながら
ポッキーのチョコレートだけを丁寧に舐め取る
ポッキーはこうやって食べた方がおいしいんだよ
っていうのは
幼稚園のときにカスミちゃんから教わった
銀色の旅客機が山の向こうに消えた頃
ようやくそのジェット音があたりに響き始めた
さっき夕暮れの近づく音だと思ったのはこれだったんだな
ねえ
カスミちゃん
きみは
いまでもポッキーを食べるときは
チョコレートだけを舐め取ってから食べているのだろうか
ぼくはたまにしか
そういう風にはしなくなってしまったけれど