擦れ合うゆびさきで
銀猫

終焉の華やぎを纏い
空いっぱいに広がる桜の隙間を
北風が逃げてゆく
見上げれば天晴の青は淡く
春を深く含んでいる

息を吹き返した芝生の向こうでは
まだ親指姫の誕生しないチューリップの固い赤が
すこし凍えて燕を待っている


春、なのだ
訳もなく浮き立つこころと
真新しい本の扉絵を覗き込むに似たときめき

そんな
春、なのだ
遠い国から降り届く黄砂の霞に触れるたび
わたしの指先はうっすらとざらついて
跨いで来た季節の、
鱗に幾つも傷をつけたさかなを
ふと撫でたくなるのだが

そっとさかなは
ひれをそよがせながら
水のもっと深みに潜ってゆくだろう


わたしは指を持て余し
そっと額を拭ってみるが
黄砂はそこにも僅かにあって
そのふたつの擦れ合う音は
散ってゆく桜にかけられぬ言葉に似ている

春を知ってか知らずか
さかなはゆっくりと濁りの水に消えてゆく

天晴の青、春の隙間で




自由詩 擦れ合うゆびさきで Copyright 銀猫 2007-04-05 16:56:28
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