花冷え
水町綜助

いま
ほの明かりの部屋がとても寒くて
ぼくは
コカ・コーラの気が抜けてゆく潮騒の中で
花が開いていくのをじっと見ている
足が冷たく
息の僅かな白さの中に
ちいさな子供だった頃の
うすい瞼にあたった光彩を思い出している

  *

目を開いていく
花が開いていく
時間
その
ながさ

瞬間
というふたつの
うその中に
きみを置いて行き
枯れていくのを
見ていた
枯らしていく
つもりもなく

  *

きみ
みぎ手の
手のひらを
ゆっくりと
ひらいてみてくれ
おやゆびから
一本ずつだよ
もちろん
二本でも
三本だけ開いてもだめだ
四本開いても
ひらいてない
一本残っている
こゆびを開いてみな
それでようやくひらいたってことになる
あたりまえのことだが

ぼくは
そこまでひらききらない内に
途中で左手にうつったろう
さびしいことを隠すくらいには
こと足りるみぎ手だった
しっかりとは
握れない

もらった花が咲き始めている
薄いハンカチが
こぼれたミルクを吸い込むような
その染みのひろがりのような速度で
きみが見知らぬ町の
森の中で
端から燃やされている
知らずぼくは
ぼくの見知らぬ町の中で朝
きのう稲妻の後に大粒の雪が降った道の上で
散る花びらの中で
呼吸の音を聞いて
それによろこぶ
そんなことを知りなおしている

   *

いま
染みのひろがりに目を落とし
もうまっすぐには見ていられないほどに
部屋の中真っ白く咲いたそれは
ひらききった瞬間から
頂から落ち
すでに散りはじめている













自由詩 花冷え Copyright 水町綜助 2007-04-05 11:23:15
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