手紙のうえを 匍匐する 春の補色残像と 虚飾で
ペン先が 紙を愛撫する この前頭葉には 潤いが
どうも足りず 西洋風の
横書きだと ぎっちょの お陰で 犬が這い回って
手が汚れるからと 君は
縦に ペンを走らせては 咽喉を ぐう、と鳴らす
小さな音を 夜の海の中
眼鏡を外し その微熱を 見えない糸で 吊り上げ
両目に押当て 少し休む
キミドリと ピンク色の
速度と方向と 温度だけ ふたつのグラスに 注ぐ
それだけで 期待しない
それだけで 夏が来るさ 融合できない 水と砂と
その隙間に 切れ込んだ
白紙を 朗読するために アラベスクと 云う名の
歓喜と祝祭を 切断して 全ての悲しみに キスを
静けさと、闇に 黙祷を ささげて 喪に服したい
その祈りに 善意は怯え ウインドゥに 乱射した
白い花弁を 拾い集める 指先が 風を産み落とす
だれのものでもない 春 未だ完成しない 手紙よ