おまえからすべて奪って
水在らあらあ









?.

なんだかみんな似てるね
みんな美人ぞろいだね
あのこ ああ、あのこなんか
絵にしても いいね

なんだかみんな似てるね
でもおまえだけ少し違うね
前髪作ったからかな
かわいいね おまえだけ

でもこんな日にかぎって
いもうとの服借りやがって
メーテルみたいな 
真っ黒なコートで

真っ白いテーブルクロスに
ワインの空ビンが
どんどん横倒しになって
デザートは
マセドニアのシャーベットで

(なあ 言ってくれ  虹を) 

今日は雨上がりの土曜日 真夜中
おまえの十人のいとこ達はみんなきれいだ
その中で こんな日にかぎって いもうとの服借りやがって
メーテルみたいな 睫して

(なあ 言えよ 俺がおまえを愛したら 虹を)

晩餐は肉と肉と肉と魚で
コーヒーのオーダーきて
じゃあコルタドで あと
コパで コニャックを

ノ、ノ、ノ、
コニャックってあんたもうだめじゃない
いつもどおりもうだめじゃない
こないだの結婚式みたいにならないで
朝まで踊るのよ私たち

いとこはみんな美人で
でもおまえが一番きれいで
いとこは十人
つがいで二十

(言いなよ いま 俺がおまえを)

こんな日にかぎっていもうとの服借りやがって
メーテルみたいな金髪で
そんなふうに踊って
そんなふうに踊って

おまえのいとこの集まりだから
わざわざ来たんだぜ
だからコニャックもしょうがないでしょ
俺たちがこんなに
どうしようもないようにさ

(言えよ)






?.

机の上のゴリラが俺を見ている
ウホ とも言わない
小さな金魚蜂が
窓際で日を浴びている
冬の間使わなかったサーフボードの上に
サボテンが並んでいる
旧市街の本屋さんが捨てたのを拾ってきた
くるくる回るペーパーバック用のラックのてっぺんに
いつか拾った片足のないデッサン用の木人が
サタデーナイトフィーバーのポーズ決めたまま
此処二ヶ月動きもしない
その隣には海賊の人形が
背中に弓しょったインディアンの人形に喧嘩を売っているが
それもここ一ヶ月
何も起きない
孔雀の羽がいくつか
小さなひよこに抱えられて
そういえばあのひよこは
リスボンのレストランで
おかっぱの小さな女の子にもらったんだ
俺たち日本のキューピー人形をあげたね
なんか俺のギターケースに入ってたんだよね
そのギターケースは最近開けられてない
おまえのアコーデオンも
サーフボードの下にねむっている
ビチョリってさ 金魚の名前
俺が日本にいるあいだに
おまえの母親がクリスマスプレゼントにくれた
バスク語で ビクトリアのことで 女の子の名前で 雌で
でも日本語の音感だとなんかね
なんだかね







?.

拝啓―  元気ですか

俺たちの家は一部屋しかないから
部屋の隅にある俺のスタジオからは
まあ 部屋中が見渡せて
椅子
ソファー
照明
そしてこれを今書いている机も
キッチンの棚も
玄関の靴入れも
全部拾ったもので
そう 家は
土足は禁止していて
俺もよっぽどこっちにやられてたのか
初めは二人ともよく忘れて
喧嘩になったものです

ベッドルーム ってものは無くて
俺が工房で作ったひどい屏風でさえぎられてるだけだから
まあそのシングルのマットレス二つつないだベッドの横に
古い扉があって
まあそれも拾ったんですが
扉のてっぺんにふくろうの木彫が施してあって
扉の前面は鏡で 姿見に使えて
彼女が欲しがって 雨の中
引きずって帰ってきました
でも 真夜中
ふくろう男がそこから
のそっ と出てきて
悪い夢をささやくんです
俺はだからほとんどいつも彼女が寝ても起きています
いつも寝不足です

実家の猫たちはどうですか
みんな なつきましたか
都市ガスに変える工事は終わりましたか
庭の薔薇は咲きましたか
ヒヨドリたちは
叫んでいますか


(言ってください 神に かけて)






?.

おまえからすべて奪って
太陽はその起点を移して
遠い海に
遠い空に

旧市街の教会の扉を
いつも笑顔であけてくれる
東ヨーロッパの浮浪者に
20セント
あげて

神はいつもあんたを見てるぜ
小銭があってもなくても
彼はいつもそう言うんだ
最近よく来るから
まあね
俺 ね

(王侯貴族と騎士と野良犬)

マッチ箱の中に小さな幽霊が住んでいて
おまえにとってそれは本当に大切で
今日は霧雨だから
世界は静かに泣いているのよ
寝ていればいいのよ
眠るのよ
眠るの

(貴族だろうが野良犬だろうが まあ 似たようなもんか)

早く帰ってきて
どこにも行かないで
だいっ嫌い
あんたなんかだいっ嫌い
だいっ嫌い

マッチ箱の中に
俺達は住んでいて
好きも嫌いも燃えて
好きも嫌いも燃えて

(それが それがさあ 俺が おまえを)

この時空の中には
生きていないんだね
俺とおまえの
あいだにある何かは

(あいしたら)
(あいしたら)

生きるとか死ぬとか
光とか影とか
そんな簡単なことじゃないんだね
おまえが泣いたら
世界が泣くっていうことはさ

神はいつもあんたを見てるぜ
そうだってさ
だから


(今 言いな

 俺がおまえを愛したら

 虹を生むって)











自由詩 おまえからすべて奪って Copyright 水在らあらあ 2007-04-05 10:31:26
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