朝の傾聴
はじめ

 朝なのに彗星の流れる音がした
 朝の森閑たる雰囲気を突き破り
 僕の家の隣の道路を通っていった
 それは自動車の奇妙な睦月の風を切る音だった
 一つ大きくプシュー と頷いて バスがアイスバーンに足を取られながら全力でエンジンを噴かす
 バスが去ってしまった後には静寂しか残されていない 雀の声さえも聞こえない 何処へ行ってしまったのだろう
 僕は意識的に時計の音に耳を傾ける それは差し迫る時間を刻々と縮めているのだ 針が瞼の筋肉を無意識的に操る 僕はまた深い眠りに就くのだ
 耳で聞き取るだけで後はそれに肉付けする空想の世界 トラックが近づいてきて新築のくせに脆い造りの家がビリビリと震える 僕にまでも伝わってくる
 僕は世界がこの部屋の気温と同じだったらいいなと思う しかしそんな訳にもいかないだろう
 朝日が本格的に射してきて 僕は目を細める このままずっと日の光を浴びていたら頭が痛くなりそうだったのでベッドから降りてスーツに着替えた
 階段から降りてくる時に目玉焼きの焼ける音とトーストの焼ける匂いがして僕は元気になる トーストの出来上がったチン という音がした トーストと目玉焼きなら飲み物は牛乳か
 僕は眩しい日差しの中で君に「おはよう」と言い 「おはよう」と言う言葉を聞いた 時刻は既に7時半を回っていて 僕は多少途惑ったが 椅子に座り 「いただきます」と声を出した
 君は笑顔になってエプロンを外し僕の向かいの席に座った 今日の君も一段と美しく 僕は心が穏やかになった 僕は朝食を食べ終えた
 時計を身につけ 財布と鍵の束と鞄とコートを持って玄関まで行くと 君は日差しに慣れた顔で「いってらっしゃい」と優しく声をかけてくれた 僕は「いってきます」と笑顔になって言うと 君の頬にキスしたくなってキスをして扉を開けた 外はとても眩しく 見上げると光輪のかかった太陽が見えた まだ慣れていなかったが僕は玄関を駆け出した


自由詩 朝の傾聴 Copyright はじめ 2007-04-05 06:09:37
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