スミザリン
チグトセ

僕は
まさに僕のような人間が、犯罪者になるんだろうと思った。
だけど僕は恵まれていて幸せで
犯罪者になることはなかった。
だから
僕は犯罪者に憎まれているんだろう、と思った。

そんなある日のこと
僕は犯罪者の少年と出会い
けんかになった。
ヒートアップする小競り合いの中
怖くなった僕は
彼の憎悪が膨らみきらないうちに、と
咄嗟に彼を殺してしまった。

こうして僕も犯罪者になった。

十五年後の真夏日に
僕は久々のセンター通りを歩いた。

何を考えればいいのかよくわからなかったので
人びとの平和を願ってみた。

願いはじめてみると、
この世はえらい不幸なんじゃないかと思えてきて
みんなみんな、実は不幸なんじゃないかと思えてきて

僕は恵まれていて幸せだったけどみんな恵まれていなくて幸せじゃないんじゃないかと思えていたたまれなくなりみんなに幸福をとせめて少しばかりでもいいから幸福をと心の底から希った。

そして郵便局のマークを見ていたら
そのうちにふと気が付いた。

ああ、そうか。
この世は
僕が願うまでもなく、平和なんだ、きっと。

だから
大丈夫だ。




自由詩 スミザリン Copyright チグトセ 2007-04-05 04:05:24
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