しまいわすれたおつり
壺内モモ子
「三百円のお返しでございます、ありがとうございました」
しまった。
おつりを財布の中にしまう前に、財布をバッグの中にしまってしまった。
「要領が悪いわねえ」なんて、店員さんに思われたら恥ずかしいので、右手にビニール袋とバッグを、左手に三百円とレシートを、にぎりしめてコンビニを出た。
さっき、コンビニで買ったパンを食べながら歩く。公園の前で、リスに会った。
「梅子ちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
「とてもおいしそうだね」
「あなたにもあげるね」
私は、パンをちぎってリスにあげた。しかし、リスは、首を振った。
「ぼくが欲しいのは、そのきらきら光った木の実だよ。僕にもちょうだいよ」
きらきら光った木の実?…ああ。
一瞬、何のことかと思ったが、すぐに、左手に握り締めていた、しまいわすれたおつりのことだと気が付いた。
「これは、木の実じゃなくて百円玉だよ」
「いや、これは絶対に木の実だ」
「こんな平べったくて、きらきら光った木の実なんてあるはずないよ」
「どれどれ、よく見せておくれ。ぜったいにぼくは木の実だと思うんだけどな」
「いいよ、はい」
私が手を広げると、リスは三百円を奪い、すばしっこい足で逃げてしまった。
やられた。
がっかりしながら歩いていると、さっきのリスが、自動販売機でジュースを買っていた。私の顔を見ると、小さな腕でジュースを抱え、すばしっこい足で逃げていった。
私の手のひらには、レシートが一枚。
そうだ、八木さんちで飼っているヤギにあげよう。
今日はいつもより長い帰り道だった。