「掌に残るもの」
広川 孝治

夜、一人じっと手を見る


節くれ立った指の隙間

すくい上げた水は

口元まで届く前に

いつも零れ落ちてゆく

ひりつく喉を潤さず

落ちてゆく水のきらめきを

恨めしそうに睨む



だが

掌に残った雫

喉を潤すには少なすぎるが

甘さと爽やかさを教えてくれる

がぶがぶ飲むなら

知ることの無い味



良いのだ

この無骨な指で

たくさんのものが零れ落ちても

本当に必要なものは

まだ

この掌に残っている



握り締め

胸に当てる

鼓動の早さが

間違っていないことを教えてくれる



わずかではあるけれど

決して譲れないもの

握り締め僕は生きてく


自由詩 「掌に残るもの」 Copyright 広川 孝治 2007-04-04 17:44:03
notebook Home