震える
tibet
猫来るな
猫来るな
猫こっち来るな
ああ嫌だ
こいつはこうやって
私の側にさえ来れば
その美しい漆黒の毛並みを
私が撫でないわけにはいかない事を
知っているんだ
どんなにやわらかいビロードだって
今はこの手が敏感すぎるから
触りたくないんだよ
私はね
お前がこんなに小さいところから
一時も離れずに面倒を見てきたんだ
始めはただの黒い
いや無色の点だった
そうだったね
お前は覚えているだろう
まったく冷たい暗闇と
微かに震えるか震えないかの
僅かな音の波の中で芽生えた生が
どうにかして光と結びついて
今こうしてここにあるということを
ああ
どうして
どうして
雑音なんか聞いているんだ
これはね
どんなにリズムを刻んだって
この世に生み落ちた
排泄物の戯言じゃないか
チリチリ
ビービー
いってるのを
どうして8分32秒も聞いていられるんだ
私はもうね
ここでこんなことで
私の時間を殺すわけにはいかないんだよ
あと百年も千年も生きられないんだよ
わかるだろ
光の速度で触った物に色と音階をつけて
どうだ
だからそうだろ
これは命のイメージだよ
これは命という何かだよ
猫おいで
猫おいで
触って音階つけてやる
猫おいで
猫おいで
震える何かにしてあげる