花園
三条麗菜

そこはいつも夕暮れで
暗く沈んだ花園
ある時
一匹の鮮やかな蝶が生まれて
その上を軽やかに舞い始めたのです

私は長いこと
絡み合う植物でした
痩せた葉は光合成を忘れ
さりとて枯れることもできず
何もかもが赤褐色をしていて
大地からの少ない養分だけで
生き長らえていたのです

私が世の中で
何かを感じた時
色彩を忘れた花が
いくつも咲くのです
私は花の咲く年頃なのですが
その花は葉とも茎とも
もっと言えば乾いた地面とも
同じ色をしているのです

眩しいはずの太陽は遠くに去り
私はただ目立たないように
地面になりすまして生きる
だけでした

でも
あなたと出逢ったその時から
一匹の蝶が舞っているのです
それは何本もの黄色い帯模様と
赤い目玉の模様を持った
とてもとても
美しいアゲハです
色彩を忘れてしまった
広大な花園の上を
風に流されるように
蝶が舞っています

ひらひら
ひらひら
それは気まぐれで
今にも風の向こうに
消えてしまいそう
ひらひら
ひらひら

私の中のどこでもいいから
色彩を思い出して
それが花であると
それが花であると
あの蝶に教えて下さい
そして蜜を
残らず吸ってもらいましょう

私の体の
どこでもいいから
それが花であることを



       靉光の絵画「花園」より着想




自由詩 花園 Copyright 三条麗菜 2007-04-03 22:18:54
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