ホーテンベイリー
シリ・カゲル

休日のキッチンでイタリアンサラダを作っていると
天井から垂れ下がったホーテンベイリーが僕に囁く
「ちまきにしてしまえ」
しかし僕はちょうどその時
革命に参加しなかった無産階級のことを思っていたので
ホーテンベイリーの命令は耳に入らなかった

サラダが仕上がってパスタの茹でに取りかかると
ホーテンベイリーが脳下垂体を揺らしながら僕に囁く
「ちまきがいい」
しかし僕はちょうどその時
タイタス・アンドロニカスの中で流された血のことを考えていたので
ホーテンベイリーの懇願は耳に入らなかった

オーブンの中で、鴨のローストは徐々にその身を焦がしていく

そもそもうちにはワインセラーがない
もう何年も前から欲しいのだが
酒類をたしなまない妻の決済がなかなか下りないのだ
しかし、今度のボーナスでは是非ワインセラーを買おう
そんなことをぶつくさと考えながら冷蔵庫を開け
ワインは赤と白のどちらにしようかと迷っていると
ホーテンベイリーが虫垂炎を散らしながら僕に囁く
「ちまきに合うのは白だ」
しかし僕はちょうどその時
密猟者に狙われた可哀想なライオンの親子のことを考えていたので
ホーテンベイリーのアドバイスには耳を貸さず
タンニンの力強い赤を選んだ

すべての食事が時間通りにテーブルに整う
妻はあと5分もすればいつものようにジムから戻ってくるだろう

タイタスは息子たちの生首を目の前にして言う
「この恐ろしい眠りに終わりはないのか?」
だが我々にとっては
こういう穏やかに暮れていく一日こそが
最も恐ろしい眠りなのかもしれない

ところでキッチンでは
赤ワインでほろ酔い加減のホーテンベイリーが
「うまい、うまい」と言いながら
皿に盛りきらなかったサラダとパスタをあっという間にたいらげた。


自由詩 ホーテンベイリー Copyright シリ・カゲル 2007-04-03 20:21:07
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