*春幻*
ちと
淡紅が揺れるから心が騒ぐ
フェンス越しの桜並木
隙間から覗くと学び舎が重なって
霞む
春の魔法にかかった
お別れはずいぶん昔に済ませたのに
世界が淡紅一色に染まる頃
すれ違った昇降口が蘇る
交わすことのなかった「さよなら」
卯月の風は柔らかい
記憶をくすぐるから少し切ないけれど
好き
忘れられない日々をどうか消さないでいて
十年後も二十年後も染まって揺れて
今年も
胸が軋む
どこか遠くで「さよなら」が響く
自由詩
*春幻*
Copyright
ちと
2007-04-03 17:03:37