蝶の群れ
及川三貴
あなたはわたしの眠っている横で
わざとらしくページをめくる音
つよく立てて
降り始めた雨を受け入れる
くらいまぶたの中で
弾ける赤い頭痛
あなたの読んでいる一行が
鮮明に浮かび上がる 夢で
目の奥にある
糸をたどって甦る
身体の隅々まで
愛撫する指のざらついた感覚が
言葉に翻訳されて宙に
立ち昇る泡を割ってゆく雨
手を伸ばすことを留めた
本の先を作り出すわたしの
言葉を追って駆け出す
あなたの痛みに
気がつかない
そこはあたたかいの
こころ以上に雨を
ページに降らせたことも
啜ったこともない
腕に重なる青い蝶の群れ
凍えないのはだれのため
横顔の痛ましいほどに
閉じ込めているわたしの
言葉を信じて目を閉じる
あなたの喜びに
気がつけない