AM6‥00 または実験的感覚的その5
はじめ

 実に心地良い時間帯だ
 僕が瞼をゆっくりと閉じると 世界の重みが瞼の上に乗っかる
 それで僕はとろりとした透明な水の中に浸ることができる
 僕は息をしながらプールのような底で静かに眠っている
 熱いものが体を通り過ぎている きっとこれから戦いに行く槍を持った紅い魚人だろう
 水は揺らめいている 人工太陽の光に照らされてきらり きらりと輝いている
 水の中だと余計に世界の物音に耳を澄ませられる 魚人達の戦いの音 アメリカの普通の家庭の朝食の食卓でのナイフとフォークと皿がぶつかり合う音 ソマリアの難民キャンプで何故か血を流している母親に寄り添うに抱き合っているまだほんの小さな子供の涙の落ちる音 シベリアの海でアザラシを獲る為に発泡した猟銃の音 中国の大量の自転車のぶつからないように警戒して鳴らす鈴の音 アマゾンのジャングルで雌の鰐が獲物を食べる為に大きく口を開ける音が聞こえる
 僕は冷たいベッドが暖かくなっているのに気付く 寝返りを打ち カーテンから覗く朝日の光と再び世界の重みを瞼に感じる 朝日の光と世界では朝日の光の方が重い
 僕の眼球は乾いてきている ようやく目が覚めてきたようだ 少し体が軽くなったように感じる 何時でも動き出せるような具合だ しかし時刻はまだAM6‥00 起きるのにはまだ早過ぎる 瞼を開ける もう少しこの朝日の光と世界と対峙してみようかなと思う
 僕の体とベッドはまた冷たくなる 朝日は雲に隠れ 世界は沈んだトーンを生み出す 世界は『包んでいる』のではなく『包まれている』 僕の心の奥底のように世界は 心は テンションの帳尻を合わせる
 僕は再び深い眠りに落ちていく 今度は底の無いとろとろとした薄緑色に濁っている水の中へ 全く汚くない むしろゼリーの中を沈んでいくようだ
 全く現実と夢と夢の関連性の無い夢を連続的に不鮮明に記憶して 僕はゆっくりと瞼を開ける
 時刻は既に現実的な時間となっていた 僕はベッドから起き上がると何も考えずに部屋を出た


自由詩 AM6‥00 または実験的感覚的その5 Copyright はじめ 2007-04-02 05:55:17
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実験的感覚的シリーズ