絆
はじめ
夢の中にあった電話帳に載っていた電話番号に夕方に電話をかけてみたらなんと君が出てきた
「あなた夢の中の電話帳を見たのね。改めて言うことじゃないけど、夢の世界っていうのは全人類に共通した世界なのよ。みんなが眠っている時に魂がいるたった一つの場所なの。夢の世界はこの世界と同じぐらい広いところなのよ。夢の世界にしか無いもの、現実の世界には無いものが夢の世界にはあるわ。夢の中では貴方に会えなかったわね。まぁ、お互いコンタクトが無かったから当然のことよね。夢の世界で出会う為には一度でもいいからその相手と接触していなければいけないからね。分かっていると思うからしつこいだろうけど、その人の行動力と顔の広さが大切なの。例えば蛙と夢の中でも会いたいのなら蛙と接触しないといけないわけ。つまり、夢の世界が広がっていくというわけね。逆に他者との接触が少なく、外界をあまり好まない人は、夢の世界が狭いということね。でも人って、恐怖や絶望の量って決まっているから、自分の世界に閉じこもっているばかりだと、一人でその恐怖や絶望に耐えなきゃいけないわけね。あなたと同じように。他者との接触が多い人は、恐怖や絶望なんて、どぉってことないのよ。そんなことだから夢の世界がおかしくなって、電話帳なんてものが出現したのよ。ある意味夢の突然変異ね。前代未聞だわ。私と接触もないのに『繋がる』なんて。私は人間との接触は全く無いけれど、他の生物達、自然達なんかと、『繋がり』はあるから、短い間だけど、毎日が楽しいわよ。貴方は既に私と『繋がった』から、これからは夢の世界で一人で苦しむ必要は無いわね。恐怖や絶望が悪魔となって降りかかってきても、私や生物や自然があなたを守ってあげるわ。強い風が吹いてきても頑丈な山々が防いでくれるし、激しい雨が降ってきても寒さも暑さも森が弾いて和らげてくれるし、強力な雷があなた目がけて堕ちてきても巨大な岩が身代わりになってくれるわ。だからもう安心して、私達はみんな貴方の味方なのよ。これからは、ずっと。貴方とは数字では表せないぐらい遠い場所にいるけど、私達と心と魂は『繋がっている』のよ。貴方は一人じゃない。だから、生きて。一度も他人と『繋がる』ことのできずに死んでいった人達の分まで、精一杯、生きて。この電話はもうすぐ消えるけど、私達の絆は消えないから。…それじゃあ、夢で逢いましょう。…さようなら」