眠り
なかがわひろか
ある夜ふと私は眠り方を忘れてしまった
思い出そうと頭を振り絞ってみたけれど
それほど易しいものではないようだ
私の眠り方は私しか知らない
何日もすると
私は眠り方を忘れた自分に慣れてきた
本を読んだり
映画を観たり
時には真夜中の町を散歩したりした
深夜の公園で一人遊ぶ少女に出会う
私はただそれをじっと見ている
お互い不可解な行動を取っているが
夜はそういったものをうまく隠してくれる
ねえ
どうやって眠ればいいか知ってる?
少女は答える
学校で習ったよ
でも先生もうまく眠れないみたい
少女は遊びにも飽きて
帰って行った
私は眠り方をすっかり忘れてしまったので
今更思い出す必要もないのだけど
なんとなく宝探しをしているみたいで
少しわくわくしている
そんなことを思いながら
私は今夜も眠り方を思い出せない
(「眠り」)