Not YABUSAKA in EDOGAWA
人間


江戸川の彼岸で
血に餓えたトッポジージョ人形が夢に酔って愛し合っている
ガードレールに近付き 嘲り
侮蔑し 向こうに遠退き
此岸でストリートチルドレンに源泉徴収されている俺を指差して 笑っている
”雑談力を磨けば大成功間違い無し万々歳フリーダイアル云々”等と書かれた看板の下で
江戸川の此岸で
うなだれて俺は 冗談じゃねえ糞ッ垂れ が口癖の単なる清掃業者だった
「次元が違うんだよ」と吐き捨てたトッポジージョ人形のTNTが
川の底の底 ヘドロに刺さった

容姿も要領も悪く 女ッ気も商売ッ気も無い俺は 非道く血税を絞り取られた
公的医療保険制度により一生分の失敗が約束されている為
生活の縫い目は粗く
EXORに立て籠もり その周りにDDTとTNTを散布し
GNPに貢献しつつMVPを目指してSOSを発しているような毎日だった

晩冬だった
夕陽で焦げた時雨が通り過ぎた
江戸川主流に身を任せて大きな白桃を抱いた赤毛猿が無数の若いツバメに鳥葬されているのを見付けた
俺は川の真ん中まで泳ぎ
濡れそぼる夢の中に若いツバメを帰し
赤毛猿の腕を掴んで岸まで運んだ
江戸川の彼岸から
逆立ちしたトッポジージョ人形たちが懐中電灯で赤毛猿を照らして口々に言った
「いや
こいつは藪坂じゃあねえ」

幸福は全て窓の外
真実は全て藪の中
浮世の首謀者である藪坂イゾルデの報奨金は都こんぶ1年分で
夢が向上心で満ちる時 浮世が絵になって売れた
ちなみに
拾った赤毛猿にはDGと名付けて可愛がった
特殊工作が得意でハンダ付けに夢中だった

それからというもの毎朝
俺がEXORの雨戸を閉めて机の上でトッポジージョ気取って空論を回せば
縁側で雑魚寝するマタニティドレスの高級女郎が上体反らしで世界新記録を更新した
しかし如何に足掻き藻掻いても
俺は「藪坂じゃあねえ」とTNTが泣いた
歩きだす足はピンからキリでもハンダでは止められないが屋外では誰にもハンデは無い
神保町で始祖鳥を見付けた
瑠璃アゲハ食って税吐いた
下馬評では
御徒町なら税込30円で幸福が買える
中古傷アリなら更に10円まで下がる
そして空論によって
ロンドンブリッヂから河童橋まで
セントラルパークから新宿御苑まで飛ばされ
よりによって浮世は肌身に吸い付くような馬のなりで去り
DDTが蒸発すると
老いたツバメが時雨のように降った

俺の血液型は江戸川の底に溜まったヘドロに似てきた
髄はドブ水で骨は麩菓子に近付いた
正直もう金輪際だと思った

財布の中の血が尽きると 高級女郎も一次元に戻ってしまった
何の遣る瀬も無く DGの臍の緒から尻の尾の根元を辿って青白い森の中に入った
歌舞伎町から鍛治町まで
明治通りから茜通りまで飛ばされ
国道339の階段を願いましては13で割るに26.07692308となり
「風呂わ南無、苦痛さん親」と語呂合わせで覚えた

此岸で一人 初めての確定申告をした俺は
突飛な形の竜飛岬から調子ッ外れの犬吠埼まで飛ばされた
浮世の馬の海に向かって叫ぶ藪坂イゾルデがDGのカッターを撒いて幸福の値が10円まで下がり
夢の中の都こんぶで窒息する俺はEXORが引き裂いた浮世絵の中で大失敗を抱え
ツバメのいない空を頭に被った
雑談をするストリートチルドレンとトッポジージョ人形の群れが蔑視する中
俺は大失敗を白桃に変えて浮世の主流に身を任せる覚悟を決めた

江戸川のヘドロ金輪際にTNTを沈めて「風呂わ南無、苦痛さん親」と唱え
DGとハンダを背負って耐える毎日を晩年まで
もう「冗談じゃねえ」俺は「藪坂じゃあねえ」


自由詩 Not YABUSAKA in EDOGAWA Copyright 人間 2007-04-02 02:36:15
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