1997
水町綜助

フ と目の前に綿毛が飛んでいたので

ク とつかまえて離して見ると

それはチカリと赤い血の玉で

もう一度握ってはなすと

よじれてつぶれて菱形のいのちに変わった

目の前では
町で一番の大通りが日没と日の出を繋いでいて

色とりどりの
その実白と黒と銀色だけの車たちが行き交い続け
いちにちを運び

そのようすを
気が遠くなるほど切られないシャッターで写し続けている男がひとりいて
連続して
ながれた小刻みな残像を重ね合わせて
塗りつぶして
それでもまだ連続して

ぼくは菱形をもう一度丁寧に指の腹でつぶして飴の中に閉じこめると

太陽なんだ 
とそいつにむかって見せた

べっこうのようなそれを見た男は

よくわからないという顔をして

ぼくもほんとうにいい加減なことを言ったと謝って

じゃあ 
といい合い東と西にそれぞれ分かれて帰った

ぼくは歩きながらさっきの飴を口にほうりこんだ

舐めずに噛み砕いたそれはやはりいのちで

まるくちいさな緑色の甲虫のようないのちで

甘くてつややかに堅くて
潰すとなかはしめっていて苦かった

噛み続け
粉々になって溶けたそれは喉に絡みついてなかなか離れないので

ぼくは何度も咳払いをしながら歩いて

同時にいくつかの密かな驚きに震えていたが

歩調の思ったよりたしかなせいで

ひとつ歩を進めるたびに ゆれて 落としてしまい

一つだけ残して忘れてしまった

なによりもいちばん驚いたそれは

そのときぼくが取り出してながめていたぼくのこころと

いのちが

同じ味だったことだ

りゆうのない不安と


自由詩 1997 Copyright 水町綜助 2007-04-01 07:18:13
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