フレアスタック ★
atsuchan69
どんよりと低い空に
ふうっ、と 溜息をもらし
雨を吸った暗いモルタルの壁は
重々しい匂いを滲ませて湿ったまま
窓枠に収められた日々を嘲い
片付いた雑事に安堵を覚えると
たちまち、身体は薔薇色に火照りだし
部屋に射し込む雨上がりの陽光
踵の高いパンプスと、青い薄手のコート
唇には、唇から始まる、真っ赤な嘘を塗って
すこし派手目の恰好で家を飛び出せば、
他愛ない日常は 音もなく崩れ去る
工場地帯のフレアスタックと、不快な騒音、
浅はかな風は 孤独に怯る町を越えて、
吹き払われる絆に舞い上がる火炎、
川縁の雑草にからみつく帯状のプラスティック
白いポリエチレン袋も、そこかしこに
幸福を装った悪夢のなかで人々は集い、
グラスを手に手に満面の笑みで祝福を捧げ
忘れられた儀式のうちに見送られる
――死が、二人を別つまで‥‥
やがて歓声が消えた後の残された闇
激しい、歓びの終わりに
打ち棄てられた影と影が揺らめく
紙屑や投棄物の散らばる
ひとり、逢瀬の小径