「リスト」
ソティロ

「リスト」




僕の昔の恋人に
いつも左手首に包帯を巻いている子が居た


最初は自殺未遂かと思ったが
そうではないらしかった
理由は訊かなかった


彼女は毎日包帯を替えたので
僕は彼女の部屋に行くときによく
包帯を買っていった
今でも薬局へ行くと包帯を見てしまう


彼女のファッションと包帯は
しばしば違和感を生んだけど
僕は次第に慣れていった


僕はよく彼女の左手首にキスをした
粗く新しい布の質感も僕は愛した
彼女はその時決まって僕の頭を撫でた
あんまりやさしく撫でるので
僕は猫になったようで楽しかった


二月目のいつかの静かな夜
眠りにつく前に
彼女のしろいうでを捉えて
「なんで」
と訊ねた
僕が窓側だったので卑怯だったと思う
彼女は少しわらって
「あなたの想像通り ここに
 私の脆さをあつめているの
 そのツケは必ずくるけれど
 どうしようもないことなのよ
 でもあなたはきちんともがくから
 見苦しくて好きよ」
と言って僕をつつんだ


あんまり嬉しくなかった


それから半年ぐらいも
彼女はテーピングがやたら上手だったり
包帯でぐるぐる巻きにして縛ったりして
いろいろと楽しかったけど
段々悪くなっていって
結局ダメだった


さいごにはじめて包帯のない左手首を見せてもらうと
そこに傷跡は見当たらなかった



僕の今の恋人はこのことを知らない




自由詩 「リスト」 Copyright ソティロ 2007-04-01 03:58:15
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